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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)633号 決定

抗告人 片山雄介

相手方 インターノバ株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は「原決定を取消す。相手方の別紙物件目録記載の動産に対する動産引渡命令の申立を棄却する。」との裁判を求めるというにあり、その理由は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  抗告人の抗告理由一ないし四について

本件記録によれば、横浜地方裁判所執行官飯島孝は、昭和五六年一一月二〇日、相手方より稲葉浩伺に対する東京法務局所属公証人及川直年作成昭和五六年第二八三四号公正証書を債務名義とする動産に対する強制執行のため、債務者稲葉浩伺経営の相模原市相模原五-一-七稲葉歯科医院内において、同医院内に所在する別紙物件目録記載一ないし五の各物件を差押え、所定の差押の表示をし、その公示書を掲示したうえで、これを債務者稲葉浩伺に保管させ、かつ、その使用を許可したこと(同目録記載一の物件も右差押物件中に含まれる。)、しかるに、抗告人は昭和五七年六月一日稲葉浩伺から右一ないし五の各物件の引渡を受け、これを占有するに至つたことが認められる。そうすると、民事執行法一二七条に基づく相手方の本件動産引渡命令の申立は理由がある。抗告人は、右差押物件につき正当な占有権限を有する旨主張するが、同条の引渡命令は、差押の表示がされた差押物を第三者が占有することとなつたとき、第三者の占有権限の内容を問わず、さしあたつて差押当時の占有状態に回復することを目的とするものであり、第三者が正当な占有権限を有することは、右命令を発するさまたげとなるものではない。

従つて、抗告人の右抗告理由はすべて採用することができない。

2  同五について

本件記録によれば、横浜地方裁判所執行官飯島孝が昭和五七年七月二〇日右差押物の売却をするため右所在場所に赴いたところ、出会した歯科医師佐藤某が右差押物は第三者である抗告人が占有している旨申立て、そのため同執行官は売却を中止し、同日差押物の点検執行をしたところ、稲葉浩伺は昭和五七年五月二六日退去し、抗告人が稲葉浩伺に替わつて前記場所で歯科医院を経営し、差押物全部を占有使用している事実が判明し、昭和五七年七月二〇日付でその旨の点検調書を作成したこと、相手方は右執行官の点検執行により、同日始めて抗告人が差押物全部を占有するに至つたことを知り、その後一週間以内である昭和五七年七月二七日本件動産引渡命令の申立をしたことが認められる。

そうすると、抗告人の右抗告理由も、採用することができない。

3  そのほか、記録を精査しても、原決定を取消すに足りる違法の点は見当らない。  4 よつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 川添万夫 佐藤栄一 相良甲子彦)

(別紙)物件目録〈省略〉

抗告理由

一、申立外インター・ノバ株式会社は、申立外稲葉浩伺に対する東京法務局所属公証人及川直年作成昭和五六年第二八三四号公正証書の債務名義に基づいて、昭和五六年一一月二〇日別紙物件目録記載の有体動産に対し差押手続をなし、かつ昭和五七年八月二六日付をもつて横浜地方裁判所より抗告人の占有している右物件につき引渡命令の発付を得た。 二、しかし右物件は、いずれも抗告人の所有であり申立外稲葉の所有には属さないものであるから、右引渡命令は取消されるべきものである。

三、まず別紙物件目録二ないし四の物件につき、抗告人が所有権を取得した経緯は次のとおりである。

1 右二ないし四の物件は、申立外稲葉が所有し、かつ相模原市相模原五-一-七の稲葉歯科医院に設置していたものであるが、抗告人は、昭和五七年六月一日右稲葉より営業譲渡によりその所有権を取得したが、その際抗告人は、右取得に際し右稲葉から右物件に対し差押がなされていることを知らされず、また右物件に差押の標示も貼付されておらず、また公示書も存在しなかつたため差押物件たることを知らなかつたものである。

2 抗告人は、右営業譲渡を受けるのと同時に右歯科医院の名称を「第一歯科相模原」と改称し、担当医師として佐藤寿彦と雇用契約を締結し、同所に勤務させたものであり、抗告人はこれにより右佐藤を占有補助者として右物件の現実の占有を取得した。

3 抗告人は、同年六月中旬頃右物件の売却期日通知を執行裁判所より受領して、はじめてこれが差押対象物件であることを知つたものである。

4 従つて、抗告人が右物件の譲渡を受けるに際しこれが差押物件であつたとしても、抗告人は即時取得の規定によりその所有権を取得したものである。

四、次に別紙物件目録一の物件につき、抗告人が所有権を取得した経緯は次のとおりである。

1 右物件は、いずれももと申立外株式会社前田製作所が所有していたが、昭和五七年六月二〇日抗告人が右申立外会社よりこれを買受け、その頃右申立外会社をしてこれを前記第一歯科相模原に設置させてその引渡を受けたものである。

2 インター・ノバ株式会社は、右物件を差押及び引渡命令の対象物件であると主張している。確かに右差押調書には、マエダユニゼツト五〇〇〇型三台が差押物件と記載されている(差押調書番号一)が、インター・ノバが差押えたマエダユニゼツト五〇〇〇型三台は、その差押執行がなされた昭和五六年一一月二〇日より同五七年五月末日迄の間に何者かによつて他へ移動されており、抗告人が営業譲渡を受けた際には存在しなかつたものである。

また、疎明書類のうち昭和五七年第一二五四号債務弁済契約公正証書中、稲葉歯科医院財産目録2の診療室の物件一八行目に、診療台ユニツト前田ユニZ五〇〇〇EP-2数量2とあるが、これは右公正証書作成の際稲葉が提出した目録をそのまま添付したものであり、現存しなかつたものである。

抗告人は、前記のとおり営業譲渡を受けた後新たにこれを前記会社より購入して右同所に設置したものであり、右差押対象物件とは同型ではあるが全く別個の物件である。

3 尚、疎明書類中、昭和五七年七月一四日付領収書の金額六八四万円と、同年一二月二日付の領収書の金額六四七万二九〇〇円とが金額において相異するが、これは当初二〇枚の手形を振出して支払つていたのを、右手形を回収して現金で支払をなしたため手形支払分の金利として上積みしていた分三六万七一〇〇円を差引いたことによるものであり、これは売渡証明書記載により明らかである。

4 よつてインター・ノバが、差押物件を抗告人が占有しているとして求めた本件引渡命令は、差押対象物件以外の物件を差押物件としてなされた違法があり取消されるべきものである。

五、申立外インター・ノバがなした本件引渡命令の申立は、差押物を第三者である抗告人が占有していることを知つた日から一週間を経過した後になされたものであるから、右命令は取消されるべきである。即ち、昭和五七年七月二〇日、横浜地方裁判所執行官が前記差押に基づき、売却期日実施のため第一歯科相模原へ赴いた際、債権者代理人長谷川協二及び代表者原新治の両名は、右売却に立会い抗告人より別紙物件目録記載の物件が抗告人の所有であり、かつ引渡を受けて占有していることを知らされたものである。しかし、インター・ノバが、本件引渡命令の発付を求めたのは、抗告人が占有していることを知つた日より一週間を経過した後であるから、右引渡命令の発付は許されないものである。従つて、原審裁判所がなした昭和五七年八月二六日付引渡命令は違法であるから取消されるべきものである。

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